よなご映像フェスティバル審査講評〜かわなかのぶひろ監督
よなご映像フェスティバル審査講評〜かわなかのぶひろ監督
  • Posted:
  • 2016.01.04
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かわなかのぶひろ監督 よなご映像フェスティバル審査講評 2015

 

個人で映像を手がける試みは、米子にも「米子映像」という8ミリフィルムの時代から活動していた組織がありました。「よなご映像フェスティバル」の構想が水野耕一と藤川知也のあいだではじまったとき、相談を受けたぼくは、この「米子映像」の会長だった周防俊成先生に、若い世代の新しい試みと合流して、新たな映像文化をつくりませんか、と呼びかけたことを思い出します…。

先行世代の経験と若い世代の機動力が、映像を通じて合流し、世代間のコミュニケーションを活性化する。世界でも例のない映像祭になるだろう、と考えたのでした。

周防先生もこの呼びかけに大いに賛同、あとは当事者同士が顔を合わせ、直接話し合う機会を待つばかり。わくわくしていた矢先のことです、周防先生の訃報が届きました。

当初の理想は残念ながら絵に描いた餅になってしまいましたが、「米子映像フェスティバル」がスタートしてから「米子映像」ならずとも、熟年世代からの応募作品が届くようになり、一昨年には熟年らしいユーモアあふれる耐乏生活を描いた作品がグランプリを獲得しました。

入賞が重要なのではありません。さまざまな世代のさまざまな作品が、フェスティバルを通じてそれぞれの価値観を伝え合い、影響し合うということが大切なのです。できることなら応募者全員に賞を差し上げたい思いで審査に臨みました…。

 

さて、今年のグランプリは、お葬式をめぐる人間模様をユーモラスに描いた「まんじゅう」でした。人形アニメという厄介な方法を、丁寧に、丹念に、飄々と描いた作者の根気と情熱は、誰が見ても賞賛する事でしょう。

準グランプリの「ネギと牛の小さな物語」は、人口250人の日野郡日南町へ帰省した作者が、農村ののどかな暮らしにカメラを向けていたら、牛のキナコが小川に転落するというハプニングに遭遇。救出までをじっと撮り続けた愛情あふれるカメラが、手際の良いつくりの編集では描けない実にほのぼのとした味わいを出していました。慈愛に満ちたそのまなざしに拍手です。かわなか賞の「紙上の空寂」は高校生の作品です。幽霊と名乗る少女と、いささかも動じることなく絵を描く少女とのストレンジな関係が、二人の会話のなんとも自然なやりとりに生かされていましたね。少女たちの演技の巧みさに魅せられました。

人と人が出会い、そしてつながる「よなご映像フェスティバル」をここまで守り育てた主催者の労苦にも特大な賞を進呈したいものです。大文字でありがとう…音符