第6回よなご映像フェスティバル審査講評 1
第6回よなご映像フェスティバル審査講評 1
  • Posted:
  • 2013.10.31
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6回よなご映像フェスティバル審査講評   かわなかのぶひろ審査委員

 

昨年は“老人力”がめざましいパワーを見せてくれましたが、今年のよなご映像フェスティバルは、鳥取=マンガという定評が浸透したせいでしょうか、アニメーションが大いに気を吐いていました。とりわけ馬場美紀さんの『ネジとねこ』は、オートメーション工場で毎日、機械の一部のようにネジの検品にいそしむ擬人化されたねこの日常を、たんねんなデッサンとサウンド・エフェクトで綴った力作でした。トラックバックするカメラが、地球上のさまざまな出来事を捉える黒木智樹の『CYCLOID』は、かつて『コズミックズーム』や『パワー・オブ・テン』という先達があるにしろ、観る側にアニメーションならではのスケールと、平和の大切さをじんわりと伝えてくれる秀作でした。伊藤貴泰『邂逅』は、デジタルエフェクト全盛の時代に、実直な手書きアニメーションで、デジタルでは描けない温かみのあるグラフィック効果を生んでいます。実写では、小森渉『My color』の色覚異常をテーマに、個性の大切さを伝えようとする作者の思いがこころに沁みました。作品の完成度はまだまだですが、今後の「可能性」という観点から推したい作品です。そう言えば、黒澤明も学生時代に、人と同じ色で絵を描くことができなくて、先生にいつも叱られていたんですね...。既成のものに似ようとする達者な作品が、今年も多く見受けられました。けれども、映像に限らずコンペティションでは、主として「個性」が評価されるということを知って欲しいですね。そういう意味では花房慎也『GO!GO!ホリボンズ』の活きのいい映像や、伊藤暢浩のおよそ理不尽なワン・ショット映画『愛憎』や、匂いを視覚で伝えようとする内田裕基『一滴のスパイス』、あるいは異色なキャラクターがはなはだ尾籠でナンセンスな会話を展開する片岡けんいちの『せつこ占い』といった試みが印象に残りました。もっとも、こうした秀作とはまったく異なるアプローチの映像も気になりました。震災のニュースを見て、泳ぎが苦手で逆上がりができなくて、ギターも弾けない、お金もない。そんな自分にもなにか出来ることがないだろうか、という思いを絵コンテで綴る内井学『サーフライダー』や、地元の人にしか伝わらない破天荒なゲームに挑戦するマルチーズの『イイトコ10撮り』や、やけくそのように繰り返しを多用した田中稔『tanaka movie♯3』の、“省エネ”アニメの乱暴な愛しさ、などなどいまだ既成の「作品」という枠に納まらない未知数のピースの、今後の展開を大いに楽しみにしています。