一般公募部門審査講評(かわなかのぶひろ氏)
一般公募部門審査講評(かわなかのぶひろ氏)
  • Posted:
  • 2012.11.17
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◇審査講評

 いまや日本を代表する映画監督、尾道出身の大林宣彦にもかつてアマ チュア時代がありました。アマチュアの8ミリ映画コンテストに応募して、なぜかいつも落選していたようです。当時のアマチュア映画は、山や、川や、お地蔵さんを、いかに美しく撮るかということがメインストリームだったのです。絵はがき的な風景や、伝統工芸の記録などがもてはやされていて、個性的な作品が入賞する余地などありませんでした。コンテストを主催する「小型映画」という雑誌の編集長は、いつも落選している個性的な応募者を会わせたら面白いのではなかろうかと考えました。編集長の計らいで出会うことなった飯村隆彦、大林宣彦、高林陽一の三人はたちまち意気投合して、やがて自分たちの作品を映画館で有料公開するという、当時としては思いきった活動を開始したんですね…。これこそが日本の戦後自主制作・自主上映映画の端緒となったエピソードにほかありません。

 さて、今年の「よなご映像フェスティバル」で、どんな個性的な作品に出会えるかと大いに期待して審査に臨みましたが、ありました、ありました! 昨年、自分の20代最後の誕生日を気温5℃の真冬の海 に飛び込むことで祝った「ミソジのミソギ」の作者マルチーズが、今年は友人の女性の20代最後の誕生日に狙いをつけて、押しかけプレゼントをするという試み。この作者ならではの自然体の発想が、無理にドラマ化しようとする作品の中では光っていましたね。この身近なところからの発想を、かわなか賞に選びました。
 身近な題材といえば、熟年夫婦の生活をユーモア溢れるエッセーとして描いた「うなぎ」には舌を巻きました。昨今の不景気や、猛暑を題材に、水を入れた瓶を太陽光に曝してお湯を沸かしたり、ラーメンや茹で卵をつくる省エネ生活といった発想には誰もが思い当たるでしょう。が、今年バカ高値のうなぎを、安売りしているからといって夫婦で毎日 食べ続けるという逆転の発想には感嘆させられました。年金生活のつましい日常を笑い飛ばしてやろうというこの作者のパロディ精神は、熟年ならではの余裕でしょうか。この余裕、文句なくグランプリに価するでしょう。今年は熟年層の応募が多かったようですが、「70歳憂鬱」など、豊かな人生経験に裏打ちされた、人生を面白がってしまうアプローチなどは、若い世代への影響を考えると今後のふくらみ方が愉しみですね…。
 これに関連してフィクションの世界は、どうやらむりやりドラマをつくろうという感じのものも少なくありませんでした。なにかに似るということよりも、自分の周囲や日常から自前の発想するということが大切ですね。松村宏賞の「Another Brother」は、これもむりやりドラマか!という見せかけから意外な方向へ突出して、じつにユーモラスな展開を見せてくれました。このジャンルは観客に先を読まれないということも重要です。
 準グランプリの「…赤塚溜池公園 川鵜撲殺事件」は、映像はある日 公園で見かけた出来事ですが、これをフィクションに変換するという意表を衝いた試みです。これも、狭苦しい現実を別の世界のコンテクストへと持ち込む新しい実験といえるでしょう。
 さて、今年の米子は「まんがサミット」や「デジタルハリウッド」の米子サテライト校オープンなどの影響から、アニメーションの応募も多かったようです。そうした中で、「くつした」や「君への手紙」「帰郷 列車」といった高い完成度の作品に注目しましたが、いっぽう習作を総動員して、なにが何でも作品にしようとする意欲を見せてくれた 「tanaka movie #2」や、とりわけ「注意」の素朴だが味わいの深いアニメーションも印象に残りました。ともあれ、今年の公募作品はバラエティ豊かになり、ますます今後のふくらみが楽しみになってきました…。