第9回 よなご映像フェスティバル・一般公募部門講評
第9回 よなご映像フェスティバル・一般公募部門講評
  • Posted:
  • 2017.01.08
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第9回よなご映像フェスティバル・一般公募部門講評

かわなかのぶひろ氏より

今年のよなご映像フェスティバル公募部門は、例年にも増してバラエティ豊かな彩りとなりました。

長編映画の場合は、もっぱら興行成績の追求が主な目的となるので、不特定多数の観客に受け入れられることが主題となります。誰からも嫌われない作品というしばりを、監督は受け入れなければなりません。つまりとんがったところを削って、凹んだところを埋め立てて、誰の口にも合う味わいにするわけですね。

 

その点、短編映画は「興行成績」というしばりに左右されません。自分が手がけたいテーマを100パーセント自分のものとして描くことができます。

例えば準グランプリの『外テ物』は、作者名があろうことか「三ツ星レストランの残飯」という型破りな名前で、内容はといえば、水玉が明滅し、色彩がのってくるモダンな発端から、ああこのテかと安心していると、やがてアタマに釘が植わった軟体動物のようなクリエーチャーと、さらにぐじゃぐじゃなキモカワイイ怪物が大広間で増殖するという破天荒なアニメーションへと展開するんです。

なんだかよくわからんけど、しっかり手が込んでいてナンセンスな味わいが強く印象に残ります。

 

かわなか賞の『5×5』(赤松桜+中村光男)は、縦5、横5、都合25の画面をカンバスにして、あたかもゲームのように様々な被写体が自在に組み替えられてゆく視覚的な作品です。

作者のひとり赤松桜は、昨年はミナト横浜を舞台にしたスタイリッシュなドラマを手がけていましたが、今回はその片鱗を残しながら、マルチ画面を効果的に使って視覚的なゲームへ展開、独自の境地を拓いています…。

 

グランプリの『星空が落ちる前に』(長谷川真梨菜)は、作者が通っている高校を舞台にしたドラマです。科学部と合併して廃部になった天文部のメンバー女子3名、男子1名が、かつてのように集合して天体観測をする。その状態を星座に模して「バラバラだけど繋がっている」と形容したり、「暗い夜空がないと、私たちも輝けない」と、意外に深い名台詞をちりばめながら、現役高校生たちの遠慮のない言葉のやりとりを生きいきと描いてゆく。つくられたドラマにはないこの輝きは、誰が見ても惹きつけられることでしょう。登場するメンバーのキャラも含めて、プロには出せない味わいがあります…。

 

この他にも、大根で切腹する(!)『潔く』や、台詞なしの『ちんもく』、得体の知れないエネルギーを発揮した『かつ江さん東京に現わる』、息子(?)に対して「俺が殺したアメリカ兵に顔がよく似ている」と呟く『瓜二つ』の奇妙な味など、このフェスティバルならではの型破り作品も印象的でした。そうそう、振ったオトコがいつまでも気がかりな心優しい女性像を描いた『やまとのもり』もありましたね…。

 

さて、こうした作品の評価とは別格の作品が、今年は出品されていた事を報告しておきましょう。

それは『zero以前』という作品です。「いい作品」というよりも、「素晴らしい存在」いうべきかもしれませんね。

作者は田口あゆみ。米子の住人です。昨年も、一昨年も出品する予定で撮影を続けていたけれど、体調が優れず出品を見送らざるを得なかったといういきさつがあり、今回ようやく実現したものです。

 

実は彼女はあろうことか目が見えないのです。

ぼくは彼女がまだ目が見える時に東京で出会って以来の友人でした。よなご映像フェスティバルでも初期に家族を対象とした作品を出品していました。言葉の感覚が素晴らしい作品でした。

そんな彼女の目が突然見えなくなってしまったんです。それで実家のある米子に帰ってきました。運よく治療を経て、今は目が見えないことを除けば元気にしています。

 

こんなことを言うと、当然彼女は嫌がるでしょう。

しかし、彼女は目が見えなくなっても、体調さえ良ければ毎回会場に来ては耳を澄ましていました。

今も会場のどこかで聴いていることと思います。

 

そんな彼女に、映像を撮るようにしかけたのはぼくです。

ニューヨークには盲目の女性写真家がいます。日本には世界最初の盲目の映像作家がいてもいいのではないか、と勧めました。

彼女が手がけた作品の、素晴らしい感覚が、目が見えなくなったごときで失われてしまうのは残念でならなかったのです。

 

そんないきさつがあって、今回彼女の新しい作品を観ることができました。

作品の完成にはフェスティバルのスタッフが、彼女の指示をサポートしてここまでこぎ着けました。

そんな事情を知るぼくが、なに食わぬ顔でこれをかわなかのぶひろ賞に推薦するのは反則でしょう。たぶん彼女自身が嫌がるに決まっています。

しかし、こうしたいきさつから生まれたこの作品のバックグラウンドを、ぼくはぜひ皆さんに知っていただきたいと思います。

 

ぼくたちは、作品だけが優れた映画のみを対象とする映画祭を目ざしているわけではありません。いい作品、と同時に素晴らしい人間との出会いを目ざしています。

作品の出来、不出来はどうあれ、よなご映像フェスティバルが田口あゆみの不屈の奮闘を通じて産み出された『zero以前』をここに上映できたことに、大きな拍手を送りたいと思います…!

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